アート思考をMiroで実践:オンラインワークショップでチームの創造性を高める具体的な方法
現代ビジネスにおいて、既存の枠にとらわれない新しい発想や、多様な視点を取り入れたイノベーションが求められています。特に、リモートワークが定着する中で、対面でのブレインストーミングやワークショップの機会が減少し、オンライン環境での創造的な協働をいかに促進するかが課題となっています。
このような状況下で注目されているのが、アート思考です。アート思考は、アーティストが作品を生み出すプロセスに見られるような、観察、問い、表現、対話といった非線形的な思考プロセスを通じて、自分自身の内面や外部の世界に対する「違和感」や「気づき」を起点に、独自の視点やアイデアを探求するアプローチです。そして、このアート思考の実践において、Miroのようなオンラインコラボレーションツールが強力な助けとなります。
本記事では、アート思考のプロセスをMiro上でどのように実践し、チームの創造性を高めるオンラインワークショップやアイデアソンに活用できるか、具体的な方法論をご紹介します。
アート思考の実践にMiroが適している理由
Miroのようなオンラインホワイトボードツールは、アート思考の非線形かつ視覚的なプロセスと非常に親和性が高い特性を持っています。
- 視覚的な思考と表現: テキストだけでなく、画像、動画、手書きのイラスト、付箋など、多様なメディアを自由に配置できます。これにより、抽象的な概念や感情、複雑な関係性などを視覚的に表現し、思考を整理・展開することが容易になります。
- 非線形なアイデア展開: 物理的なホワイトボードのように、アイデアを線形的に書き出すのではなく、関連性のあるものを近くに置いたり、矢印で繋いだり、グループ化したりと、思考の流れに合わせて自由に構造化・再構造化できます。これは、アート思考における「問い」の深掘りや「違和感」からの発想に適しています。
- リアルタイムおよび非同期での協働: チームメンバーが場所や時間を選ばずに、一つのボード上で同時に作業したり、各自のペースで貢献したりできます。多様な視点やアイデアが集まりやすく、相互に刺激を与え合う創造的な対話が生まれやすい環境を提供します。
- プロセスの可視化と蓄積: 思考のプロセスや議論の履歴がボード上に蓄積されます。これにより、後から振り返ってアイデアの源泉を辿ったり、プロセスのどこでブレークスルーがあったのかを分析したりすることが可能です。
Miroを活用したアート思考ワークショップの具体的なステップ
アート思考の基本的なステップをMiro上で行うワークショップ形式で紹介します。これはアイデア発想や課題発見、コンセプト創造など、様々な目的に応用できます。
ステップ1:深く「観察」する
アート思考の出発点は、対象を既成概念にとらわれずに「観る」ことです。ここでは、特定のテーマ(例:顧客の行動、競合サービス、社会的な現象など)に対して、様々な角度から情報を収集し、Miroボード上に集約します。
- 具体的なMiroでの活動:
- テーマに関連する写真、スクリーンショット、ニュース記事、データ視覚化などをボードに貼り付ける。
- 対象となる場所や状況を観察した際のメモやスケッチを付箋や手書きツールで書き込む。
- チームメンバーそれぞれが「気になったこと」「違和感を覚えたこと」を小さな付箋に書き出し、関連する情報の上に貼る。
- KJ法やアフィニティマッピングのように、集まった観察結果をグループ化し、関係性を整理する。
ステップ2:「問い」を立て、深掘りする
観察から生まれた「違和感」や「なぜだろう?」といった疑問を大切にし、それを「問い」として明確にします。この問いが、その後の探求の出発点となります。
- 具体的なMiroでの活動:
- ステップ1で集約された観察結果や違和感を起点に、「なぜそうなるのか?」「もし○○だったらどうなる?」「本来はどうあるべきか?」といった問いを付箋に書き出す。
- 問いと問いの関係性を矢印で繋いだり、ツリー構造にしたりして、問いのネットワークを構築する。
- Miroの投票機能を使って、チームとして最も探求したい問いを絞り込む。
- 選ばれた問いを中心に、さらに「なぜ?」「なぜ?」と掘り下げる「5 Whys」のような手法をMiro上で展開する。
ステップ3:アイデアを「表現」する
問いに対する多様な可能性やアイデアを、言葉だけでなく、視覚的な要素も駆使して自由に表現します。ここでは、論理的な正確さよりも、発想のユニークさや広がりを重視します。
- 具体的なMiroでの活動:
- 問いを中心にしたエリアを作成し、そこから連想されるアイデアを付箋、簡単なイラスト、イメージ画像、図などでボード上に拡散させる。
- テキストだけでなく、アイデアの「感覚」や「雰囲気」を伝えるために、色や形、配置にも意味を持たせる。
- 他の人のアイデアを見て、そこから連想される新たなアイデアを付け加える(ビルディング・オン)。
- 短いコンセプト文や、ユーザーが体験するシーンのスケッチ(カスタマージャーニーの一部)などをMiro上に表現する。
ステップ4:アイデアを「鑑賞」し、「対話」する
表現されたアイデアを客観的に「観る」ことで、新たな気づきや意味を発見します。そして、そのアイデアについてチームで対話することで、理解を深め、アイデアを洗練させていきます。
- 具体的なMiroでの活動:
- チームメンバー全員で、ボード上のアイデアを時間をかけてじっくりと「鑑賞」する。コメント機能を使って、気になった点や理解できなかった点、共感した点などを書き込む。
- 特定のアイデアについて、Miroの音声/ビデオ通話機能を活用してオンラインで議論する。
- 「このアイデアの面白い点は何か?」「どのような視点が含まれているか?」「さらに発展させるには?」といった問いかけを共有し、対話を深める。
- アイデアを評価・選定する際も、単なる優劣ではなく、「最も違和感があるが可能性を感じるアイデア」「最も多くの視点を含んでいるアイデア」といったアート思考的な視点を取り入れる。
Miro活用アイデアソン/ワークショップ設計のポイント
効果的なオンラインアート思考ワークショップを実施するためには、いくつかの設計上の工夫が必要です。
- 目的と問いの明確化: ワークショップの開始時に、何を探求するのか、どのような問いに取り組むのかを明確に共有します。
- ボード構成の工夫: 広大なMiroボードを、ステップごとにエリア分けしたり、特定のフレームワーク(例:ペルソナボード、ジャーニーマップ、コンセプトキャンバスなど)のテンプレートを活用したりすることで、思考の道筋をガイドできます。
- ファシリテーション: 参加者が安心して自由に表現できる雰囲気作り、対話が深まるような問いかけ、タイムマネジメント、技術的なサポートなど、オンラインでのファシリテーションは成功の鍵となります。Miroの機能(タイマー、ブレークアウトフレーム、投票機能など)を効果的に活用します。
- 非同期と同期の組み合わせ: すべてをリアルタイムで行う必要はありません。例えば、ステップ1の「観察」結果の集約や、ステップ3の「表現」は、非同期で行ってから、リアルタイムで「対話」の時間を設けるなど、柔軟な組み合わせが可能です。
期待される効果
アート思考をMiroなどのオンラインツールで実践することで、以下のような効果が期待できます。
- 論理的な思考だけでは生まれにくい、ユニークで多角的なアイデアの創出
- リモート環境下でも、チームメンバーの多様な視点や感性を活かした協働
- 抽象的なアイデアや感情を視覚的に表現する力の向上
- 固定観念にとらわれず、物事の「見方」を変える柔軟なマインドセットの醸成
- オンラインでの創造的なコミュニケーションとエンゲージメントの向上
まとめ
アート思考は、既存のビジネスフレームワークとは異なる視点から、新しいアイデアや解決策を生み出す強力なアプローチです。そして、Miroのようなオンラインコラボレーションツールは、そのアート思考のプロセスを可視化し、促進し、チームでの実践を可能にします。
ロジカル思考の限界を感じている、多様な視点を活かしたアイデア創出に挑戦したい、リモート環境でのチームの創造性を高めたいといった課題をお持ちであれば、ぜひアート思考をMiro上で実践するワークショップを試してみてはいかがでしょうか。小さな一歩からでも、チームの思考プロセスに変化をもたらし、新たなビジネスの可能性を切り拓くことに繋がるはずです。